背景
有明海においてノリ養殖期のユーカンピア
(Eucampia zodiacus)(図1)赤潮の発生は、
海域の栄養塩濃度を低下させることでノリの色落ち原因となることから、大きな問題となっています。
特に広域で大規模な赤潮が発生した際には、甚大な被害が発生してしまいます。
一方で、その赤潮発生メカニズムについては、未だ不明な点が多いのが現状です。
赤潮の発生を予察することができれば、ノリの摘み取りを行うべきタイミングなのか、またはノリ網の管理を行うべきタイミングなのかなど、ノリ養殖のスケジュール管理の点において大きな効果が期待されます。
そこでここでは、近年明らかとなってきたユーカンピア赤潮の発生メカニズムと、短期予察方法についてご説明します。
<赤潮発生メカニズムの解説>
従来からユーカンピアの赤潮は、有明海において2月から3月にかけて広域で発生することがわかっていました。
なぜこの時期に広域で赤潮を起こすのか海洋観測を基に調べた結果、2月から3月の小潮期の有明海で、エスチュアリー循環(表層の河川水を含んだ水は沖合に流れ、底層水は河口に流れる構造)の発生とユーカンピアの増殖に関係があることが明らかとなりました。
つまり、沖合に向けて広がる表層水中においてユーカンピアは増殖する一方で、表層から沈降した細胞は底層水の流れにのって河口域に回帰しており、その後再び河口域の栄養塩を使って増殖していると考えられました(図2)。
エスチュアリー循環が起きる要因としては、2月以降に増加する降雨による河川流量の増加と、気温の上昇という季節的な要因が関係していることがわかりました。
以上のことから、ユーカンピアの赤潮発生の予察は、2月以降の降雨の増加と気温の上昇のタイミングを予測する事で可能であると考えられます。
注意点・課題点など
ユーカンピアの赤潮発生をより正確に予測するためには、細胞密度が少ない10月から1月までの期間の動態も重要な要素であると考えられます。
ノリ養殖期間中、広域観測を行うことでユーカンピア細胞の出現状況を注意深く観察していくことが、より精度の高い赤潮発生予察に繋がると考えられます。
参考文献
Yamaguchi A., Fukuoka K., Okamura K., Ota H., Naitou T., Abe S. (2025) Development of Eucampia zodiacus blooms associated with salinity stratification in Ariake Bay during winter. Journal of Oceanography, 81: 113-125.
備考
これは、水産庁委託「漁場環境改善推進事業 赤潮被害防止対策技術の開発」により得られた知見および佐賀県有明水産振興センターの協力を得て、水産研究・教育機構が作成しています。